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ヘリコバクター・ピロリ菌
はじめに
これまで
胃炎におけるヘリコバクター・ピロリ菌の検査・除菌治療は保険の対象外なので自費診療になっていましたが、平成25年2月22日から
慢性胃炎にも保険適応が拡大されました。
【これまでピロリ菌における検査・治療の保険適応は、
胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃癌・MALTリンパ腫・特発性血小板減少症に限られていました。】
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の確認に際しては、(1)及び(2)の両方を実施する必要があります。
(1)胃内視鏡検査により、慢性胃炎の所見があることを確認する。
(2)ヘリコバクター・ピロリの感染を以下のいずれかの方法で確認する。
迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法、抗体測定(血中・尿中)、尿素呼気試験、抗原測定(糞便中)
つまり、
保険でピロリ菌を調べるためには、
慢性胃炎があることを確認するために(おおよそ6か月以内に)胃内視鏡検査を実施している必要があります。
また、
自費でピロリ菌を調べることもできます。
*ABC検診:血中HP菌抗体検査+ペプシノゲン検査 【費用:¥5,000(診察料・税込み)】
ABC検診については、こちらのサイトをご覧ください*血中HP菌抗体検査のみ 【費用:3,220(診察料・税込み)】
ピロリ菌陽性であった場合に行う除菌治療は、3種類の薬【2種類の抗生物質と胃酸を抑える薬(PPI)】を、朝と夕方の1日2回、1週間続けて服用します。
ヘリコバクター・ピロリ菌とは
日本人のヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)感染者は約3500万人といわれており、特に50歳以上の人で感染している割合が高いとされていますが、衛生環境が整ったことによってピロリ菌の感染している人の割合は減少しており、若い世代では低くなっています。
ピロリ菌はらせん状にねじれた芋虫に尻尾(べん毛)が4~8本生えたような形をした細菌で、強い酸性の胃の中でも胃粘膜の粘液層(表層粘液)に侵入し住家としています。
ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素をだしていて、これが胃の中の尿素を分解してアンモニアを作ります。
このアンモニアはアルカリ性なので、ピロリ菌の周りの酸が中和されて胃酸から身を守り胃内の酸性環境の中で生存できるようになっています。
多くのピロリ菌感染患者は顕著な臨床症状がありませんが、ピロリ菌が産生するサイトトキシンおよび粘液溶解酵素が粘膜損傷とそれに続く潰瘍発生に関与していると考えられます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は再発を繰り返す病気ですが、ピロリ菌を除菌すると再発がとても少なくなります。
感染者は,胃癌発生の可能性が3~6倍高くなります。
(ピロリ菌に感染している人と感染していない人に対して10年間調査を行ったところ、感染している人では2.9%に胃がんが発生したのに対し、感染していない人では胃がんは発生しなかったという研究報告があります。)
他の関連悪性腫瘍として粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫があり、
消化器以外の疾患でも血小板減少性紫斑病、貧血、蕁麻疹などとの関連が示唆されています。
感染経路
日本は1992年の時点で20歳代の感染率は25%程度と低率であるが、40歳以上では7割を超えており発展途上国並に高いことが報告されています。この極端な二相性には、戦後急速に進んだ生活環境の改善が背景にあるものと考えられています。
現在のところ、ピロリ菌の感染経路は胃内に定着することから経口感染すると考えられています。
ほとんどが5歳以下の幼児期に感染すると言われており(幼児期の胃の中は酸性が弱く、ピロリ菌が生きのびやすいためです。)、感染している親との濃密な接触(離乳食の口移しなど)、あるいは便に汚染された水・食品を介した経口感染経路が有力視されています。
ピロリ菌は恐らく親から子供に家庭内で感染しているのです。
成人してからの感染は少なく、仮に感染して急性の炎症を起こしても、その時点から慢性化して胃に定着することはまれといわれています。
検査方法
ピロリ菌の検査はいくつか種類があります。
尿素呼気試験が1番精度の高く、ピロリ菌の診断に最適です。2番目は便中抗原と考えます。それぞれの特性を考慮し、状況により検査を組み合わせ診断します。
* 尿素呼気試験
13C-尿素を含んだ検査薬を飲む前後に容器に息を吹き込んで呼気を調べる検査です。
ピロリ菌の産生するウレアーゼが胃内の尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解することを利用し、呼気中の13C-二酸化炭素の増加を測定する方法です。
体への負担がなく、かつ精度も高い検査法です。
* 便中H. pylori抗原検査
検便のように便を採取する検査です。
ピロリ菌に対する抗体が、生きた菌だけでなく死菌も抗原(H. pylori抗原)として認識し、特異的に反応することを利用し、便中H. pylori抗原の有無を判定します。
体への負担が全くなく本菌の存在を判定できます。
* 血中・尿中抗H. pylori IgG抗体検査
ピロリ菌に感染すると、本菌に対する抗体が患者さんの血液中に産生されます。血液や尿を用いてこの抗体の量を測定し、ヘリコバクター・ピロリ抗体が高値であれば本菌に感染していることが認められ、ヘリコバクター・ピロリ感染の有無を検索するスクリーニング検査です。
除菌後の抗体価低下には1年以上かかるケースがあるので、除菌治療判定には用いることはできません。
* 病理組織学的検査
内視鏡にて胃から摘み取ってきた粘膜の一部を HE(ヘマトキシリン-エオジン)染色あるいはギムザ染色、免疫染色により染色し、顕微鏡で観察する方法です。
直接観察することによりピロリ菌の存在を診断でます。また、培養不能でウレアーゼ活性ももたない coccoid form(球状菌)の状態でも診断できるという長所があります。
* 迅速ウレアーゼ試験 (rapid urease test, RUT)
尿素とpH指示薬が混入された検査試薬内に、内視鏡時に胃粘膜より摘み取った組織を入れます。胃粘膜にピロリ菌が存在する場合には、ウレアーゼにより尿素が分解されてアンモニアが生じます。これに伴う検査薬の pH の上昇の有無を、pH指示薬の色調変化で確認します。内視鏡検査後すぐに検査結果が得られます。
* 培養法
内視鏡の際に胃粘膜の一部を摘み取り、その組織から菌を分離培養することにより、ピロリ菌の存在を確認します。この検査法の長所は菌株を純培養し入手できる点であり、この菌株を薬剤感受性 (MIC) 測定や遺伝子診断など他の検査に利用することができます。
ピロリ菌の除菌治療
2種類の抗生物質と胃酸を抑える薬(PPI)の3種類の薬(それぞれ通常用量の2倍量)を、朝と夕方の1日2回、1週間続けて服用します。
当院では、3剤併用療法における服薬コンプライアンスの向上(飲み忘れ防止)を目指し、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori )除菌療法がより正確に実施されるよう、1日服用分の薬剤を1シートにまとめ組み合わせたシート製剤を処方しています。
(
1次除菌には、タケキャブをセットしたボノサップ400を処方しています)
新しい制酸剤(タケキャブ)を使用することにより、以前は1次除菌率が70~80%であったものが約90%に上昇しました。
【除菌判定】
除菌が成功したかどうかは、除菌治療(服薬)終了後4週間以上あけてピロリ菌検査をして判定します。
初期診断と除菌治療後では異なる検査を行うことが多く、(除菌されても抗体が6か月以上残るため)抗体検査は除菌判定には使用できません。
1次除菌で約90%の方はピロリ菌を除菌することができますが、これで除菌が出来なかった場合には薬を替えて再度除菌治療(2次除菌)を行うことが可能で、2次除菌では更に約90%の患者さんが除菌されますので、1次除菌と2次除菌を合わせるとほとんどの方で除菌が可能となります。
また、除菌後再感染する確率は一年間で0~2%といわれていますので、殆どありません。
(2次除菌には、以下のいずれかを処方しています)
2次除菌治療でもダメだった場合【2次除菌無効時】
ニューキノロン系抗生物質を使った3次除菌も検討されていますが、現在は保険適応外です。
現在は自費診療になりますが、希望されれば3次除菌も行っておりますので、医師にご相談ください。
(この場合、治療薬服用後の除菌判定検査・診察料も自費となります)
また、内視鏡検査を行いピロリ菌培養検査にて抗生剤の感受性検査を行い抗生剤選択の参考にする事もあります。
【除菌治療の主な副作用】として以下のものが報告されています。
① 下痢を起こしたり、便がゆるくなったりすることがあります。
② 食べ物の味を苦く感じたり、味覚がおかしいと感じたり(味覚異常)することがあります。
③ ペニシリンアレルギー・マクロライドアレルギーのある方は、全身に発疹を起こすことがあります。
いずれも除菌治療時の一時的なものですが、症状の強い場合には、直ちに服薬を中止し受診してください。
【除菌治療中の注意】
*飲み忘れないようにしてください。
(除菌率が低下します。また、耐性菌の出現等の問題につながる可能性があります。)
*喫煙は避けてください。(除菌中の喫煙は除菌率を下げます。)
*2次除菌中は、飲酒厳禁です。(2次除菌に使用されるメトロニダゾールは、アルコール分解を遅らせるので、
頭痛や動機などが起こることがあります。2次除菌中及び終了後3日間は禁酒が必要です。)